書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2022-12-23
- ページ数
- 461ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.6 x 1.6 x 15.1 cm
- ISBN-13
- 9784102402511
- ISBN-10
- 4102402519
- 価格
- 880 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第二次大戦の残影色濃い1954年。フィリップは、考古学者の兄がアムステルダムの運河で身を投げたとの報を受ける。死因に不審を抱き、兄の謎めいた友人と恋人らしき女性の行方を追ってカプリ島へと向かったが――。善悪のモラル、恋愛、サスペンスと、さまざまな要素を孕み展開する馥郁たる人間ドラマ。第1回CWA最優秀長篇賞に輝き、戦後欧米ミステリーの可能性を切り拓いた記念碑的作品。
レビュー
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「太陽がいっぱい」的な?
緻密に計算されていて完成度が高い作品と思いました。舞台もイギリス、オランダ、イタリアと転々と変わり、面白く読めます。兄の死の謎を追うミステリーでもあり、主人公の成長を描く青春小説でもあり、どの角度からも楽しめます。特にイタリアに移ってからは、1950年台に作られたヨーロッパ映画(太陽がいっぱい、みたいな)を見ているような臨場感がありました。逆に言えば、そういう映画を一度も見ていないと、時代の雰囲気が掴みづらいかも。
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色々な意味で意義のある紹介の、CWA賞第一回受賞作
イギリスの考古学者がオランダで亡くなり、その弟が不審に思い調べ始めるが・・・というお話。 CWA賞の記念すべき第一回受賞作という事で、その事実がありながらも、長い間翻訳されなかったという曰くのある作品だそうです。話はこの後のイギリスで書く人の多くなる犯罪小説で、社会や世論を意識した日常の犯罪を克明に描く、という感じの内容でこの後書く作家はポリティカル・スリラーにしたり、サイコ・スリラーにしたり、という後続の作家に影響を与えたかもしれないという見識も頷ける作品でした。 またイギリスの犯罪小説(イギリスの場合、クライム・ノベルというよりもこの方が似合う様な気がしますが)特有の暗さや透徹とした視線の雰囲気や気分に溢れていて、舞台はイギリスではないですが、イギリスの作家特有の資質がうかがえ、こちらも後続の作家への影響が伺われる様な気もします(イギリスは曇りが多く、霧も多く、常に曇天というステレオ・タイプなイメージを引きずっているだけで、あんたの勘違いと叱られるかもしれませんが)。 解説で三橋さんが詳述されてらっしゃる通り、第二次大戦が終わって間もない頃という事で、イギリスも一応戦争には勝ったけど、終戦直後は国民全員疲弊していた、という推理小説(「カマフォード村の哀惜」エリス・ピーターズ著)も読みましたが、この小説も戦争の疲弊を引きずっている印象があり、やはり戦争がただやるだけでなく、勝っても相当ダメージが残るらしいのも判りました。 推理小説としての謎ときも今読んでも結構良く出来ているので、私みたいに推理小説を好きで読んできた輩には読んでいる間はとても楽しかったです。二読三読できそうなので、また読み返したいです。★は限りなく5つに近い4つという事で。 ウェストレイクの「ギャンブラーが多すぎる」という作品に、もう娯楽小説の新規の紹介は難しいかも、と書きましたが、この版元の「ヒドゥン・マスターピース」という枠組みで娯楽小説の埋もれた作品を紹介してくださるという事で、期待するし、応援します。あまり売れたりはしないと思いますし、90年代みたいな活況を呈する事はもうなさそうですが(ポール・オースター氏のデビュー作が年末のベストテンで意外に健闘しましたが)。ラインナップにはロス・トーマスの未訳の作品もあるそうで、個人的に今からわくわくしております。 この作品も著者の著作リスト等も詳しく掲載されており、担当の方々の尽力に好感が持てました。まだこういう作品が好きな人が出版社にいらっしゃる様で、個人的に嬉しいです。 色々な意味で意義のある小説。機会があったら是非ご一読を。
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翻訳に難あり
ハードボイルド調を意識した結果でしょうか、とてもギクシャクした翻訳で、しばしば日本語として破綻している部分も見受けられます。
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ジャンルを盛り過ぎて欲張った感のあるストーリー
魅力的で香るような文体。ぼくの生まれる一年前に出版された古い小説。それでいて本邦発邦訳。しかし、決して古臭くて読みにくいというような小説ではない。 確かに携帯電話もパソコンも人工衛星もない。情報入手や相互連絡の手段は著しく限られ、作中では電報が多用されている。しかし、人間の罪と犯罪は、どの時代も変わらない。不穏な黒い勢力も、彼らに牛耳られた警察組織も。人々の愛情も、憎悪も。欲望も、貧富の差も。 アムステルダムの飾り窓の女。運河に落ちて死んだ兄の事件。ナポリ。アマルフィ。セレブたちのパーティ。青の洞窟。ファム・ファタール。大戦の影。行間に薫る香気。懐かしい冒険の時代。大戦後の平和への一歩を踏み出したばかりの世界。セピアカラーの映画のような小説。 ごった煮感のあるジャンルを盛り過ぎて欲張った感のあるストーリーなので、海洋や絶壁でのアクションも豊富であれば、個性豊かな男女のラブロマンスもこってり。今にしてみればサービス過剰の部分もあるけれど、これで運河の事件は終わり? と思うと何だか肩透かしを食らった気分でもあり、複雑。 でも読みごたえ、やキャラクターたちの個性や、それを取り巻く地中海、そこに住む地の塩のような住民たちの心意気等々、島国日本から見れば国際色豊かな環境など、つくづく羨望を感じてやまない。そんなロマン溢れる舞台に展開する、恋と冒険の物語。ロマンの王道をゆくエンタメ作品。それでいてハードな魂と気品を忘れさせぬ騎士道精神。恋と闘いに燃える青年たちの駆け引きドラマが、大戦後間もないが冷戦の緊迫を秘めるヨーロッパに展開する作者渾身の力作である。 今では失われて久しい小説作品に久々に出会えたようなアナクロめいた密かな喜びをもたらしてくれるので、作品の現代性やサービス精神に不足を感じてもなお基調で豊穣な読書体験をもたらしてくれる作品である。CWA賞第一回受賞作品として今更ながら翻訳されている不思議、という点もミステリーファンにとっては、興味深いと思う。