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クレムリンの魔術師

グラン・プリ・デュ・ロマン(アカデミー・フランセーズ)

クレムリンの魔術師

ジュリアーノ・ダ・エンポリ

権力の中枢を、ひとりの男の告白から立ち上げる政治小説。実在の人物や事件の輪郭を借りながら、事実と虚構の境界そのものを問い直す鋭さがある。

権力プーチンロシア現代史政治的操作虚実の境界

作品情報

ロシア権力の暗部を、告白という形で照らし出す。

ヴァディム・バラノフという、現実の政治顧問を思わせる人物を軸に、ロシアの権力構造とその演出を描く。テレビ、宣伝、選挙、戦争が連なる世界を、告白体の語りでたどりながら、権力が物語を作り替えていく過程を浮かび上がらせる。

レビュー要約

  • 知的な着想と人物造形が高く評価され、権力の構造を読み解く手つきに説得力があると見なされている。いっぽうで、事実との距離感をどう受け止めるかで評価が割れやすい。

書籍情報

出版社
白水社
発売日
2022-12-08
ページ数
272ページ
言語
日本語
サイズ
19.6 x 13.7 x 2.2 cm
ISBN-13
9784560094686
ISBN-10
4560094683
価格
3190 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/評論・文学研究/外国文学研究/フランス文学

「プーチンの演出家」が語るリアルポリティーク小説 「クレムリンの魔術師」として知られたヴァディム・バラノフは、ロシアの皇帝の黒幕になる前はTVのリアリティ番組のプロデューサーだったという。 〈私〉はある夜、SNSで知り合った人物からモスクワ郊外の邸宅に招かれ、その祖父の代からの「ロシアの権力の歴史」を知る。ヴァディム・バラノフには舞台芸術アカデミーで演劇を学んだ青春時代、ヒッピーの両親をもつクセニアという名の美しい恋人がいたという。 ロシアのプロパガンダ戦略やウクライナとの戦争において、彼はどんな役割を担ってきたのか? 「プーチンの演出家」の告白を元に伏魔殿クレムリンの舞台裏が明かされてゆく──。 主人公バラノフのモデルは、ロシア副首相、大統領府副長官、補佐官を歴任した、ウラジスラフ・スルコフ。エリツィン、クリントン、メルケル……実在の政治家たちも実名で登場し、ソチ冬季オリンピック開会式で赤軍合唱団にダフト・パンクを歌わせた史実なども挿話され、プーチンの権力掌握術や、ロシアの国民感情が語られてゆく。愛と権力をめぐる迫真のリアルポリティーク小説。 小泉悠さん推薦! アカデミー・フランセーズ賞受賞作品。

著者略歴 ジュリアーノ・ダ・エンポリ[Giuliano da Empoli] 1973年、イタリア人の父親とスイス人の母親との間にパリで生まれる。ローマ・ラ・サピエンツァ大学を卒業し、パリ政治学院にて政治学で修士号を取得。フィレンツェ市の副市長、そしてイタリア首相のアドバイザーを務めた後、現在はパリ政治学院にて教鞭をとる。 訳者略歴 林昌宏[はやし・まさひろ] 1965年、名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学経済学部経済学科卒業。主要訳書に、ブリュノ・パティノ『スマホ・デトックスの時代 「金魚」をすくうデジタル文明論』、ダニエル・コーエン『ホモ・デジタリスの時代 AIと戦うための(革命の)哲学』(白水社)、『経済成長という呪い 欲望と進歩の人類史』(東洋経済新聞社)、フランソワ・エラン『移民とともに 計測・討論・行動するための人口統計学』(白水社)、ジャック・アタリ『海の歴史』、『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』、『食の歴史 人類はこれまで何を食べてきたのか』(プレジデント社)など。

レビュー

  • クレムリンの内幕

    朝日地球会議で紹介されていたため購入。面白くてすぐに読了しました。

  • 星6つでも足りない

    読者は随所で胸の奥にいくども疼きを覚えるのを抑えきれないだろう.聖書が旧約と新約で成り立っていることにたとえれば,この本は人格神ヤーウェが人間に対して激情の憤怒と露骨な処罰を見せる旧約の側に立つものだ.薄っぺらい隣人愛のスローガンなど鼻で吹き飛ばすほど,人が生きる現実というものの分厚な実態を暴き出す.リアルポリティーク小説とうたったのは版元のガリマール出版なのか翻訳元の白水社なのか分からないが,これはリアルポリティークではなく,リアルユマニテである. 本書のプーチン最側近の主人公に在りし日の祖父が言う. ・何が問題だかわかるか.人間の目は森の中で生き残れるようにつくられている.だから動くものに反応するんだ.動くものであれば視界の隅であっても,目はそれを捉え,脳に情報を伝達する.反対に(略)変わらないものを見定めることができない.これは大問題だ.というのも,最も重要なのは必ずと言ってよいほど,変わらないものだからだよ. ・...天がお前の頭の上で崩れ落ちたとしよう.しばらくたってから,それは自分にとって最良の出来事だったとわかることさえある.お前の意のままになるのは,出来事の解釈だけだ.自分たちを苦しめるのは物事でなく,自分たちがそうした物事に下す判断だと悟れば,お前は自分の人生を御することができる.だが,そうした考えを持たなければ,お前は大砲で蠅を撃つような羽目に陥る. こうした静かな描写もあれば,ロシアという牢屋の名主が,義侠とも悪党ともつかない手法で牢内を鎮めていく過程や,クリントンが前大統領エリツィンを満座の前でさんざん小馬鹿にし,プーチンとの初会談でも田舎者を嘲る態度だったことに対する怨念が細かくに綴られたりもする.小説としている手前,主人公は仮名だが,実名はウラジスラフ・スルコフ(元副首相.現在,消息不明).プーチン長期政権の立役者であり,クリミア,ドンバス侵攻を画策した元TV演出家.「灰色の枢機卿」との異名も持った.念のため,冒頭,胸の疼きと言ったのは悪党や悪漢の世界が蠱惑的だからではない.実態を突きつけられたことに対する現実回帰のためである.要するに目が覚めた.

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