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オラニエ公ウィレム: オランダ独立の父

ジェームズ・テイト・ブラック記念賞

オラニエ公ウィレム: オランダ独立の父

C・V・ウェッジウッド

オランダ独立運動の中心人物、ウィリアム・オブ・オレンジの生涯をたどる伝記歴史書。宗教対立と政治闘争のただ中で、個人の信念と国家形成がどう結びついたかを、緻密な史料に基づいて描いている。

伝記オランダ史宗教対立政治史

作品情報

国家の成立を一人の生涯から読み解く、重厚で読みやすい伝記。

オランダ独立戦争の渦中にあって、ウィリアム・オブ・オレンジがどのように信頼を集め、対立する勢力の間で政治的な均衡を探ったのかを描く。国家の独立、宗教改革、宮廷政治が交錯する16世紀ヨーロッパを、人物伝のかたちで立体的に見せる一冊。

レビュー要約

  • 史料に支えられた構成の明晰さと、人物像の描き方が高く評価されている。古い研究に基づくため細部に時代を感じるという声もあるが、物語としての運びの良さと政治史の見通しのよさを支持する読者が多い。

書籍情報

出版社
文理閣
発売日
2008-03-01
ページ数
391ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784892595615
ISBN-10
4892595616
価格
3080 JPY
カテゴリ
本/歴史・地理/世界史/ヨーロッパ史/ヨーロッパ史一般

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レビュー

  • 祖国の父として ut Pater Patriae

    20世紀イギリスの歴史家による伝記 "William the Silent 1533-1584"(1944年)の翻訳。ウェッジウッドには17世紀ドイツの歴史を扱った名著『ドイツ三十年戦争』がある。 オラニエ公ウィレムは、オランダ独立が地味な事績とみられているためか、世界史の愛好家以外には知られていないようだ。詩人のシラーが『オランダ独立史』で「沈黙公」の異名どおりのウィレムを描いている。その史書でつくられた白皙で冷静沈着、容易に感情を表に出さない男という像は、本書によって見事に打ち砕かれた。実のところのウィレムは快活で率直、よく人を惹きつけ、およそ小説の主人公にはなりそうもない散文的な人物だったらしい。それにしても大国スペインに抵抗して、湿地帯で寸断された国土を縦横に動き回りまたは逃げ回りながらも、堅忍不抜に同志たちを奮い立たせる姿は十分印象的だ。敵方のフェリペ2世、アルバ公や執政マルハレータ、エグモント伯など、それぞれの歴史人物の性格や背景、さらにはオランダ独立に利害関係を持つイギリスやフランスの外交の複雑な動機がうまく解きほぐされて理解できた。

  • 激動期を生きたオヤッさん統治者の伝記

    オラニエ公ウィレム。 オランダの貴族で、宗主国のスペインからネーデルランド(オランダ)を独立へと導いた建国の英雄。 英雄と書いたが,なんと柔和で親しみやすく、なんと剛胆とか勇猛とか専横とかとは縁遠い人だろう。 フリードリヒ・シラーの歴史書『オランダ独立史』は、この小さな国が支配権を握る横暴で高圧的で冷酷な強大国に、辛抱強く用心深くずる賢く立ち向かい、自由を戦いとる様を描いている。 そしてその文章からは愛情と共感が端々から滲みでている。 そこでは、タイトルが示すようにネーデルランドという国が主人公だ(原文タイトルではオランダではない)。 しかしそうは言ってもやはり、その市民を辛抱強く領導したオラニエ公ウィレムは、登場する人物の中で一番興味をそそられる存在である。 著名な歴史家V.ウェッジウッドの本書は、シラーによりそそられた興味に十二分に応えてくれる。 カント主義者のシラーは、当の哲学者が次のように言っていることを知っていただろう。 〈民主的な統治には公共の利益のために生きる指導者が必要だが、人間はみな私利私欲に走る性向があり、公益を目指すようにはつくられていない。だから厄介なのだ。〉 この容易ならざる大問題の祝福された解決者を、シラーもおそらくウェッジウッドもウィレムに見たのではないだろうか。 そんなことを考えながら本書を読むと、本当にそのような指導者がネーデルランドにおり、新しい彼らの国を築いたことを教えられる。 それもウィレムの態度は終始一貫している。 政治の世界に蠢く薄汚い先生連中ばかり見聞きしているせいか、それは驚嘆と歓喜の気持ちを同時に呼び起こしさえする。 それもオラニエ公ウィレムという人は、中世の名残が残る時代にあってという制約つきではあるが、対内的には徹底して民主的な辛抱強い指導者だ。 それは彼が身にまとった政治原則から出てくる態度ではなく、ほとんど生来の資質と幼児環境に根ざした民主主義のように思われるのだ。 そう言えそうなのは、彼が親しみをこめて「オヤジさん」と市民によばれていたことにも表れている。 身分的地域的利害関係のほかに、宗教上の対立、旧教カトリック派、新教ルター派とカルヴァン派、その三つどもえの争い反目などが、目指す民主的統一をさらに難しくしている。 さらには同じ宗派の内部でも衝突があった。 このような状況での民主主義なのだから敬服する。 ウィレムは血を見たくないのだ。血が流れるとき、そこで泣き悲しんでいる人間を見てしまうのだ。 対外的には,第一に宗主国であり後には敵となるスペイン王国との確執と戦争がある。 ほかにもスペインとたえず緊張関係にある隣の大国フランス王国、同じく隣国でスペインの親戚筋の神聖ローマ帝国、ドーヴァー海峡の向こうのイギリスなどなどと外交的に渡り合わなければならない。 しかしそこでも小国ゆえに自国内のまとまりと他国との友好関係を抑止力とし、直接的衝突をできうる限り回避しようとする。 辛抱と強情と優雅と機知と説得力etc.を頼りに同志を集め、自分たちの権利と自由の制限に対抗し、避けられない戦争には万全を尽くして対処し、ついにはすべてのくびきを払いのける。 本書はその翻訳のぎこちなさなど読んでいるうちに忘れてしまうほど魅力的だ。 それは著者のウェッジウッドがウィレムを稀代の人物であると認め、愛情を持って描いているからだろう。 それは読む方にも伝染してくる。 日本ではオランダに目を向ける人はあまりいない。 江戸時代は本当に昔になってしまった。 歴史上の人物の中からよき統治者をみつけようとしても、それほど多くいるわけではないだろう。 そのような希少な例をあげるとき、オランダのウィレム公の名が出てよいと思う。 この本を読んだら、そう考える人はきっといるにちがいない。

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