作品情報
喪失に囲まれた少年が、死を見つめることでかえって生の輪郭を知っていく。
世界遺産都市アビラを舞台に、孤児として育ったペドロの幼年期と青年期をたどるミゲル・デリーベスの代表的なデビュー作。厳格な教師の家で学ぶ少年時代、親友との別れ、海の仕事へ向かう青年期、そして愛する人を失ったあとに残る空白が、死への意識と生への希求を交差させながら描かれる。抑制された文体の中に、喪失の痛みと人間へのまなざしが深く刻まれた長編。
レビュー要約
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重い主題を扱いながらも、抑制の効いた筆致とアビラの描写の鮮やかさが印象に残ると評価されている。喪失の物語でありながら、読み終えたあとに不思議な透明感が残るという声がある。
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厳しい空気やゆっくりした展開に難しさを感じる読者もいる一方で、喪失と希望の重なり方に強い余韻を見いだす声が多い。静かな読後感が長く残る作品として受け止められている。
書籍情報
- 出版社
- 彩流社
- 発売日
- 2010-12-01
- ページ数
- 298ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 13.5 x 2.3 x 19.5 cm
- ISBN-13
- 9784779115936
- ISBN-10
- 4779115930
- 価格
- 2480 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/スペイン文学
ノーベル文学賞の受賞に限りなく近いといわれたスペインの国民的作家ミゲル・デリーベスの「ナダル賞」受賞の長編! ミゲル・デリーベスは2010年3月12日、故郷バリャドリッドで亡くなった。スペイン国民はその死を悼み喪に服した。 本書は、デリーベスのデビュー作で、スペインの芥川賞とも言うべき「ナダル賞」受賞作品であり、デリーベスの生涯のテーマである「幼年時代への回想と死へのこだわり」が糸杉の影に託して色濃く投影された作品である。 第1部では孤児で育った主人公ペドロが同じく孤児の境遇にある12歳の親友を肺結核で失い、幼くしてすでに人生に深い虚無感を抱く過程が描かれる。 第2部では、少しでも俗世間を離れるべく船乗りの職業を選ぶのだが、ふとした機会に最愛の女性に巡り会う。人生を厭い、すべてに懐疑的なこれまでの生活を捨てて彼女の手を取り、希望の未来へ向けて歩み始めたばかりのところで身重の妻を交通事故であっけなく失ってしまった。ここに親友の死と最愛の妻の死とがひとつに重なって主人公を悲嘆のどん底へ突き落とすのだが、やがてそこから瞳をあげて明るい将来へ踏み出すまでの姿を描いている。
Miguel Delibes 1920年、スペインのバリャドリッド生まれ。2010年、バリャドリッドの自宅で逝去。1947年に『糸杉の影は長い』でナダル賞を受賞。それ以後、幅広い文学活動により数々の文学賞を受けている。1973年には王室アカデミーの会員となる。カスティーリャ地方を舞台にした作品が多いが、代表作として『エル・カミーノ(道)』『マリオとの五時間』『赤い紙』『好色六十路の恋文』『灰地に赤の夫人像』『異端者』『ネズミ』などがある。 1945年 兵庫県生まれ。神戸市立外国語大学修士課程修了。神奈川大学外国語学部教授。 著書 『贋作ドン・キホーテ』『物語スペインの歴史』『物語スペインの歴史 人物篇』(以上、中公新書) 訳書 ミゲル・デリーベス『赤い紙』『異端者』『マリオとの五時間』(以上、彩流社)『バロック演劇名作集』(国書刊行会、共訳)『贋作ドン・キホーテ』(ちくま文庫・上・下)他
レビュー
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スペイン、個人経営の学校、結核の子ども
著者は1920年、スペインのバリャッドリッド生まれ。同書は1947年にナダル賞を受賞、2010年没 1部、2部から成る。 著者がモデルと思われるパウロ少年、両親を亡くし、親友を結核で亡くす1部。 青年となったパウロは、死を恐れ、孤立する。しかし恋人の出現で人生が変わり、そして・・・2部。 1部は、小児結核の発症から死までのドキュメントとしても読める。 2部は、人に、女性に関心を寄せない男が恋をして、幸福になる話。そう見るとたわいない恋物語であるか、読み進めるにつれて、自分にとって他者は、家族は、大切な人は、いかに尊いものかと感じ始める。 スペイン、アベラ、パウロが育つ城壁に囲まれた町、そこにも関心が向く。
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濃密な深い思索と、爽やかな透明感が残る秀逸な小説
現代のスペイン文学について余り知らなかったが、叙情的でミステリアスな題名に惹かれて読み始めた。まるで映画を観ているような繊細で美しい描写と、これほどに深く心にしみ入る思索に富んだ小説に出会ったのは久し振りである。 この作品がミゲル・デリーベスの処女出版であり、あとがきに依れば、訳者岩根氏は著者と深い因縁で結ばれていたようである。詳細な風景の描写がそのまま読む者の目に浮かんで、登場人物のそばにいるように感じるのは、現地に頻繁に行かれる訳者の情熱によるのかも知れない。 主人公が、神秘的で静寂な世界遺産の都市アビラで多感な少年時代を送り、生と死の狭間で抱いた思いを後半の成人になっても持ち続ける心情を、デリーベスは濃密で、深い思索に溢れた筆致で見事に書き上げている。根底に生と死に向かう苦しみを扱っているのに、読み終えた後、死を超越した神を感じる爽やかな透明感が残る不思議な作品である。
関連する文学賞
- プレミオ・ナダル 第4回(1947年) ・受賞