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ミドルセックス

ピューリッツァー賞

ミドルセックス

ジェフリー・ユージェニデス

ギリシャ系移民の家族を軸に、先天的に両性の特徴を持って生まれた主人公の成長と家族の歴史を描く大河的長篇。ジェンダー、遺伝、移民体験を絡めながら個と歴史の重層性を探る作品。

ジェンダーとアイデンティティ移民史家族の秘密アメリカ現代史

作品情報

ギリシャ系移民の家族を軸に、先天的に両性の特徴を持って生まれた主人公の成長と家族の歴史を描く大河的長篇。ジェンダー、遺伝、移民体験を絡めながら個と歴史の重層性を探る作品。

ギリシャ系移民の家族を軸に、先天的に両性の特徴を持って生まれた主人公の成長と家族の歴史を描く大河的長篇。ジェンダー、遺伝、移民体験を絡めながら個と歴史の重層性を探る作品。

書籍情報

出版社
早川書房
発売日
2004-03-24
ページ数
733ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784152085542
ISBN-10
4152085541
価格
3240 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/評論・文学研究/外国文学研究/英米文学

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レビュー

  • 生きられた歴史のガイドブック

    今日敗戦後の混乱が残っている日本を実際に経験した人は少数派になりつつあり、1950年代は生きられた時代というより歴史となっている。私たち戦後派の人間にとってみればその中を生きてきた20世紀半ばの混乱した世の中も、現代の青年・壮年の人たちにとっては日清戦争や日露戦争と同列に配置された歴史だ。そして歴史書を紐解いて理解する20世紀半ばと、実際に生きた当時は異なる。歴史になる過程で、私たちにとって皮膚感覚ともいえる情報がろ過されてしまうのだ。 この物語は語り手の祖父母である姉弟が結婚した時点から始まっている。トルコとギリシャの間に軍事衝突が発生し、トルコ領内にギリシャ系の移民として暮らしていた祖父母がその当時のトルコ領の田舎から米国に難を逃れる辺りが物語の第一の山場。そしてその細部に当時のトルコ、ギリシャが彼らを通して読者にも追体験される。そして合衆国の勃興期から戦後世界までを立体的に追体験することができる。そのあたりの事柄が、まるで皮膚感覚に刷り込むように緻密に描かれている。もちろん、したがって、大局的に全体を俯瞰するようなことはないので、歴史の全体像を見る事は出来ないが、その点は我々が生きている現代の全体像をつかみきれないのと同様だろう。 一人の少女/男性の成長物語、自己発見と自己確立の物語であると同時に19世紀末から21世紀に至るヨーロッパ、中東、そして米国の生きた歴史のガイドブックにもなる。フィクションでありながら、膨大なインタビューで構成されたノンフィクションのような味わいのある物語。昔、伊藤整が文学論を展開した中に、表現方法に行き詰った時には記録文学に回帰するといったことが書かれていたと記憶するが、事実を緻密に記録したと錯覚させるような表現方法から、その伊藤整の文学論を思い出した次第。ご一読をお勧めしたい。

  • 現代の散文叙事詩

    多国籍・日英バイリンガルの読書会で、長期休暇の前に「次に何を読もうか?」と集まってひとしきり話し合って、帰ろうとしているところで、中でも読書好きなアメリカ人2人が私に読んでみないかと、紙の本を貸してくれた。そのときの説明から、両性具有とギリシャ古典テイストということに惹かれて、読み始めたのだが、コトバが難しかったので、日本語訳を読むことにした。(実際は、両性具有ではなく、半陰陽だとあとで分かったが、それは大きな問題ではない。) 作者であり、自身もギリシャ系アメリカ人である、ジェフリー・ユージニデスはその前にもいくつかの小説で高い評価を得たが、あるとき、数世紀前に生きた両性具有者の日記を読み、「そこのところが知りたい」という核心がぼやけていて、残念な思いをし、自分でこのテーマで小説を書こうと思った。そのときに、遺伝子が近親交配によって、両性具有を引き起こすケースがあると知り、自分の先祖が住んでいたというギリシャの小さな村では、またいとこ同士の結婚がそれほど珍しくなく、そういった環境では、あるいは、そういうケースも起こりえたかもしれないと思って、この小説を書き始めたのだそうです。 一方、ミドルセックスというタイトルは、「あいまいな性」を意味すると同時に、主人公が生まれ育ったアメリカの町の名前でもある。 本書は、ギリシャトルコ戦争で難民となり、アメリカに渡った姉弟の物語。マイノリティとしての移民の物語。モータウンの華やかな時代から衰退までの物語。人種問題を含めた、アメリカ合衆国の物語でもある。そして、主人公である、カリオペ/カルの自分探しの物語でもある。 近親相姦/近親交配という、重いテーマも内包しながら、なにやらものすごく懐かしいような、暖かいような情緒に満ちあふれている点で、本書に出会えて良かったと思う。それをユーモアと一言でかたずけるには惜しい気がするので、もし、本書に興味を持ったなら、ぜひ読んで欲しいです。

  • トルコを追われたギリシャ系移民一家の運命を背景にインターセックスの少女の決断を語る一大叙事詩

    6~7年ほど前のこと。『ザ・プロミス:君との誓い』という映画を見たことがあります。第一次世界大戦中、独墺と同盟して連合国と戦っていたオスマン・トルコ帝国内のアルメニア人大量虐殺を背景にした歴史映画です。アルメニア系医学生の主人公は、救助に来たフランスの軍艦に乗り込む途次、銃撃で恋人を失い、替りに孤児となった見知らぬ女の子と共にアメリカに渡ります。養女にしたその女の子の結婚式が在アメリカのアルメニア人共同体で行われる場面が、印象的なラストシーンになっていました。 本書の発端は、丁度、その6~7年後の1922年、アタチュルク率いる新生トルコとギリシャとの戦争のとばっちりを受け、小アジアに村落を作って細々と暮らしていたギリシャ系住民の一家族が、虐殺を逃れてアメリカに渡るところから始まります。デトロイトのギリシャ系コロニーの中で成功者としてのし上がってゆく一家の、その三代目に生まれた少女が、遠い故郷の村に時々発生するインターセックスであることが14歳にして判明し、男性として生きることを選ぶまでの、百年に亘る一大叙事詩です。解説を読むまでてっきりノンフィクションかと思っていたほどの、迫真力ある描写に支えられた大長編小説です。 さすがに長すぎで自分なら三分の一の分量で書いてしまうところだろうな、などと不遜な感想と共に、我慢して最後まで読んで、百年前の小アジアのギリシャ系住民の村落の伝説と、現代アメリカに生きる主人公の運命がピッタリと、嵌め絵のように合わさって、感動の結末に至ります。 本書のもう一人の主人公、というか真のヒロインは、祖母のデズデモーナです。このいかにもギリシャ風の名前からしても、アメリカに馴染めずに、祖先の文化と生活様式に固執し続ける女性は、夫(ほんとうは実の弟)が賭博で全財産を摩ったと聞いて、着衣を次々に引き裂いて夫を茫然とさせるのです。着衣を引き裂いて悲しむのは、聖書などにも出てくる古代地中海世界女性の表現様式ですが、デズデモーナはまさに、現代アメリカでも古代ギリシャの伝統の体現者として生を全うし終えるのです。そう、孫娘が孫息子となって長い出奔から戻って来た時、高齢で認知症が進んでいて、最初は誰だか分からなかったけど、やがて、故郷の村では、女の子として生まれた筈が思春期を過ぎる頃には男になってしまったという話をしばしば耳にしていたことを思い出し、そしてその原因が自分と夫との姉弟の、アメリカに渡ったついでの近親結婚にあったことにも思い当たり、先祖代々のギリシャ人共同体の世界へと還帰して一生を終えるのです。 ちなみに作者がこの小説の構想を得たのは、ミシェル・フーコーの手で出版された、19世紀フランスの女子修道院学校の生徒エリュクリーヌ・バルバンの手記を読んだことだということです。国書刊行会の「書物の王国両性具有」に掲載されたフーコーの序文と、この手記に題材を採ったパニッツアーの小説もついでに読むことになりました。「手記」の方はさすがに邦訳がないので、ガリマール書店から原書を取り寄せようかどうかと、目下迷っているところです。

  • ピュリッツァー賞受賞作。

    これがフィクションとは俄には信じられないほどに、 登場人物の心情や家族の歴史が、カリオペ/カルの口を借りてこと細かに語られる。 その数奇な運命に、必ずや心を奪われるだろう。 これはもう一大叙事詩だ。 ぐだぐだしたレビューは不要だ。 とにかく、読んでいただこう。

  • 物語の魅力を存分に味わって下さい

    豊穣な物語世界を堪能した。これぞ小説を読む醍醐味というものだ。アメリカに渡ってきたギリシャ系一家の三代にわたる長い歴史。ユージェニデスは、そこに近親婚と両性具有という稀有な、それでいてかなり魅力的な題材を盛り込んで、今までにない壮大なサーガを描き上げた。 本書は物語を楽しむ物語だ。ギリシャという古風な因習を引きずって、新世界に溶け込み切れない愛すべき人たち。どこかアジアの民族とだぶるギリシャの人たち。登場人物はみな魅力的だ。物語の魅力を存分に味わって下さい。

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