第三帝国を旅した人々:外国人旅行者が見たファシズムの勃興
第一次世界大戦後から第二次世界大戦終結までのドイツを、外国人旅行者、外交官、記者、学生、芸術家、スポーツ選手らの記録からたどる歴史ノンフィクション。後知恵ではなく同時代の戸惑いや魅惑、見逃し、抵抗の声を集め、ファシズムが日常の風景として立ち上がっていく過程を立体的に描く。
作品情報
旅行者の何気ない日記や手紙が、第三帝国の空気を後世の読者に手渡す。
『第三帝国を旅した人々』は、ナチスの台頭を外から眺めた人々の記録で再構成する歴史書である。日記、手紙、記事、回想録に残された声は、驚きや好奇心、ときに無理解を含み、読者を「その時点では何が見えていたのか」という問いへ向かわせる。政治史の大きな流れだけでなく、ホテル、学校、競技場、街路の細部から、全体主義が日常へ入り込む過程を読ませる一冊。
レビュー要約
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読者からは、膨大な一次資料を読みやすい物語に束ねる構成力が評価されている。旅行記の軽さと歴史の重さが同居するため、知らずに加担する視線の危うさまで考えさせるという反応が多い。
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書評では、旅行者の断片的な証言を通じて、銃後を支える普通の人々の主体性や時代の空気を浮かび上がらせる点が注目されている。
書籍情報
- 出版社
- 白水社
- 発売日
- 2020-09-26
- ページ数
- 474ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784560097854
- ISBN-10
- 4560097852
- 価格
- 4840 JPY
- カテゴリ
- 本/歴史・地理/世界史/ヨーロッパ史/ドイツ・オーストリア史
有名無名の180人が「呟いた」ナチスとは 歴史的事件を見聞した人々の肉声が蘇る 1919年から45年まで、日記や書簡を引用し、歴史的事件の瞬間を生きた人々の肉声を再現する。LAタイムズ書籍賞受賞作品。 第一次大戦後まもない1918年から第二次大戦終結の45年まで、とりわけナチスの勃興から隆盛時のドイツ社会と歴史的事件や出来事について、第三帝国を訪れた各国からの旅行者、外交官、政治家、ジャーナリスト、学者、ベルリン・オリンピックに参加した外国人選手らの残した日記、手記、記事、回想録などを集め、その肉声を再現する歴史書。 著者は、戦後の知恵や常識に汚されていない、その時その場で書き記された一次資料を蒐集し、第三帝国に対する直接的で、正直な「呟き」をタイムカプセルのなかに閉じこめた。歴史的、客観的判断とは無縁かつ自然体で記録された、有名無名の180人の率直な反応や意見は、現代社会のSNSに相当するだろう。逆説的な言い方をすれば、むしろ井蛙の見であるからこそ興味深いとも言える。 一般人が旅行者や生活者の立場で、街路・宿舎・自宅で感じ、考えた、手垢のつかぬ生々しい記録を基に、「ファシズムの勃興」を再構築してみせた画期的な作品。統制と迫害、侵略と戦争へ徐々に歩み始める第三帝国と現代社会を重ねてみるのは、考えすぎだろうか。地図・口絵写真・旅行者人名録収録。 [目次] 凡例 はじめに 第1章 開いたままの傷口 第2章 深まる痛み 第3章 セックスと太陽 第4章 「煮えたつ混沌」 第5章 窮地に陥る 第6章 怪物か驚異の人か 第7章 夏休み 第8章 フェスティバルとファンファーレ 第9章 ハイル・ヒトラー 第10章 古参兵たち 第11章 文学的「旅行者」 第12章 雪と鉤十字 第13章 ヒトラーのオリンピック 第14章 学問的不毛の地 第15章 虚々実々の接触 第16章 旅のアルバム 第17章 併合 第18章 「平和」と砕けたガラス 第19章 戦争への秒読み 第20章 戦争 第21章 旅の終わり あとがき 謝辞 訳者あとがき クレジット 旅行者人名録 調査した公文書館 参考文献 注釈
ジュリア・ボイド(Julia Boyd) 1948年生まれ。ロンドン在住の歴史作家。外交官の故サー・ジョン・ボイドと結婚するまでロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に勤務。英国大使夫妻として二人はボン、ニューヨーク、香港で暮らす。大使最後の勤務地東京には1992年から1996年まで滞在。その間、明治の日本にやってきてハンセン病患者の救済に努めた英国婦人、ハンナ・リデルの伝記"Hannah Riddell:An Englishwoman in Japan"(邦訳『ハンナ・リデル――ハンセン病救済に捧げた一生』)を執筆。英国へ帰国後、奨学金財団ウィンストン・チャーチル記念信託ならびに英語交流連盟(ESU)の理事を歴任。 訳者:園部 哲(そのべ・さとし) 1956年福島県生まれ。1979年一橋大学法学部卒業、三井物産入社。パリ大学法学部留学、ニューヨーク、ロンドンを経て2005年同社退職、翻訳業に就く。訳書に『ニュルンベルク合流』『エリ・ヴィーゼルの教室から』『上海フリータクシー』(以上、白水社)ほか多数。朝日新聞GLOBE連載「世界の書店から」にて英国担当。ロンドン郊外在住。
レビュー
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観光、学業、仕事等のために第三帝国に旅行、滞在した180人が残した著作、日記、書簡等の解析。
TRAVELLERS IN THE THIRD REICH:The Rize of Fascism Through the Eye of Everyday Peopleの翻訳である。訳題は主題名は原題通り、副題名もおおむね原題通り。 著者ジュリア・ボイドは1948年生まれの女性作家。英国大使夫人として、1992年から1996年まで日本に滞在したとのこと。本書の原書は2017年刊。 外国人旅行者とは、第三帝国を旅行した人々が中心だが、学業、仕事等のために第三帝国へ旅をして、一定期間住んだ人達も含まれている。たとえば、団体旅行、自動車旅行を楽しんだ英米国民、留学や花嫁のため送り込まれた良家の子女、その他、新聞記者、退役軍人、ビジネスマン、学者などである。 引用されているのは、著者が全世界52箇所の図書館・公文書館で探し当てた著作、日記、書簡等で、出てくる「旅行者」の数は180人である。叙述は、経年的かつテーマ別に分類された21章の著者の語りの中に、「旅行者」の第三帝国体験、感想、感動、批判等をはめ込むという形式になっている。 「旅行者人名録」は最後に20頁ほどにまとめられている。この中で、私が本書を読む前から知っていた人は30人ぐらい。日本では無名の人が多いと思う。 なお、ヒトラーが首相となり、その後に全権委任が成立するのは。第6章で描かれる出来事なので、第5章まではワイマール共和国末期の話である。第20章はポーランド侵攻で始まり、第21章は終戦で終わる。 概要 第1章開いたままの傷口・・第一次大戦後。食糧不足の中、勤勉で、誇り高いドイツ人。 第2章深まる痛み・・さらなる窮状。空腹と絶望のドイツ。 第3章セックスと太陽・・シュトレーゼマンによるインフレ終焉とドイツの復興。突然、モダンで、革新的で、セクシーで、刺激的になったドイツ。前衛的ベルリンの性的自由とスリル。同性愛、裸体露出の自由。世界で一番女性議員の多い国。セックスと太陽、素晴らしき新世界のきざし。その一方、古風なドイツ。青年運動に参加する真剣な若者たち。 第4章「煮えたつ混沌」・・ワイマール芸術の質と多様性。ドイツ演劇、映画の繁栄。高級ナイトクラブで繰り広げられる夜の真剣勝負。ベルリンの華麗なナイトライフ。「やりたい放題」の公共支出による豪勢な新建築。1929年10月の大暴落による経済危機。乞食の増加。1930年9月のナチスの議会進出。ナチスと共産党の衝突。化け物のようなナチス集会。多くの外国人評論家にとっては、ナチスはドイツに注入された新たなダイナミズムに見えた。 第5章窮地に陥る・・1931年春の生活状態の悪化。旅行客は30パーセント減少。安いバス団体旅行が増える。1932年3月のヒンデンブルク大統領再選。7月選挙でナチス大勝利。ヒトラーの黒人観。1933年1月、ヒトラー首相就任。 第6章怪物か驚異の人か・・国会炎上。選挙でヒトラー勝利。ヒンデンブルクがヒトラーに全権委任。突撃隊のユダヤ商店妨害。ヒトラーを褒め称える外国人。焚書。 以後は完全な第三帝国時代。 第7章夏休み、 第8章フェスティバルとファンファーレ、 第9章ハイル・ヒトラー、 第10章古参兵たち、 第11章文学的「旅行者」 登場する作家は、ヘンリー・ウィリアムソン、クヌート・ハムスン、トーマス・ウルフ、ド・ルージュモン、ヴァージニア・ウルフ夫妻、マリア・ライトナー、サミュエル・ベケットなど。 第12章雪と鉤十字 第13章ヒトラーのオリンピック 第14章学問的不毛の地 第15章虚々実々の接触 第16章旅のアルバム 第17章併合 第18章「平和」と砕けたガラス 第19章戦争への秒読み 第20章戦争 第21章旅の終わり。 私的感想 〇全体約474頁の大部な本だが、第三帝国外国人「旅行者」のリアルタイムの日記、手紙、著作のハイライト的部分の引用が中心になっており、著者の一般向けの平易な語り口もあって、大変興味深く、読みやすい。 〇時期により、旅行目的等により、第三帝国に対する旅行者の印象は異なっており、全体をまとめるのは難しいが、おおむね第三帝国に好感を持って帰国したようである。その理由は、一、元々、ドイツ文学、ドイツ音楽、ドイツ哲学に関心、憧れ、好意を持つ人が、自ら旅行した。または、子供を留学に送り出した。二、第三帝国にとっては自国へ観光は重要な産業であり、巧みな宣伝で旅行者を招き、丁寧にお・も・て・な・した。三、旅行客に対して執拗ともいえるプロパガンダが展開された。ナチス・ドイツ、特に若者の規律正しさ、強固な目的意識は、旅行者を感動させた。等である。一番洗練されたプロパガンダがベルリンオリンピックであった。 〇旅行・子弟の留学先にドイツを選ぶ理由も興味深い。イギリスの貴族階級には、上記のドイツ文化への憧れ、尊敬に加えて、共産主義を制圧しドイツを再生させたヒトラーへの賞賛があったという。それに加えて、有利な為替レート、貧困に陥った男爵夫人がほどほどの料金で部屋を貸してくれたという事情も紹介されている。 〇出番の多い外国人は ☆李羡林・・6つの章に登場。中国人学者。ドイツ留学(ハイデルベルク)するが戦争のために帰国できず、戦後まで滞在。 ☆アンドレ・フランソワ=ポンセ・・4つの章に登場。駐独フランス大使。3年間ドイツによって監禁。 ☆トルーマン・スミス大佐・・8つの章。米国大使館付き陸軍武官。ヒトラーに最初にインタビューした公職アメリカ人。 ☆キャサリン・ホリスター・スミス・・7つの章。トルーマンの妻。保守派。 ☆サー・ホラス・ランボウルド・・4つの章。準男爵。駐独英国大使。ナチスを激しく批判。 ☆レディ・エセルレッド・ランボウルド・・3つの章。ホラスの妻。ベルリンから母親に手紙を書き綴る。 ☆コンスタンシア・ランボウルド・・4つの章。エセルレッドの娘。いきいきしたベルリン滞在記を残す。 ☆クリストファー・イシャウッド・・3つの章。作家。「さらばベルリン」の著者。 ☆ジェフリー・コックス・・3つの章。ドイツ語習得のため、ハイデルベルク滞在。戦後ジャーナリストとして活躍。 ☆アンドレ・ジッド・・3つの章。ノーベル賞作家。 ☆ロバート・ジェイミソン・・3つの章。ドイツで英語を教えていた。本国への報告書が残る。 ☆スティーブン・スペンダー・・4つの章。英国詩人。 ☆ジョーン・メアリー・フライ・・3つの章。女性社会運動家。一次大戦後のドイツ全国を旅した。 ☆ヌマ・テタズ・・3つの章。スイス人ビジネスマン。ミュンヘン滞在記を残す。 ☆マーサ・トッド・・3つの章。アメリカ大使の娘。『第三帝国の愛人』の主人公。当初ナチスを支持し、のちにソビエトスパイになる。 〇あまり関心がないので省略したが、本書にはクラシック音楽関係の話題が多い。 〇著者の結論は以下の通り。「ここに集めた旅人たちの物語のなかから浮かび上がった事実で一番慄然とするのは、それほど多くのきわめてまっとうな人たちが、ナチス・ドイツを賞賛しながら帰国したことです」 私的結論 〇私が一番面白かったのは、6つの章に登場にするユニティ・ミットフォードであった。彼女はリーズデイル男爵の5番目の娘で、「息を呑むほど美しい顔立ち」で、「素晴らしい体付き」をしていたが、党大会をきっかけに総統に夢中になってしまってからは、機会あるたびに腕を宙に伸ばし、「ハイル・ヒトラー」を連呼した。夜ベッドに入ると、ヒトラーに祈りを捧げ、眠りに落ちる前におごそかにナチス式敬礼をしたという。
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ナチスが、外国人を含む市井の人々の心に意識しないままに浸透していく様子に愕然とします
ドイツ人以外の視点から、ナチスの党勢拡大を捉えた点が興味深い
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全体主義国家で、ナチスドイツほど外国人旅行者を受けいたれた国はない
主に戦間期を通じてワイマール時代、ナチス時代にドイツを訪問した外国人の記録。 全体主義国家で、ナチスドイツほど外国人旅行者を受けいたれた国はないという。 各人の体験記を各章にしているのではなく、時代順各人の訪問エピソードが散りばめられ構成されているので、時代の流れも掴みやすい。 宥和政策は非難されるが、当時、ドイツとイギリスはお互い親近感を抱いてたのが改めてわかる。 史実ではドイツvsイギリス、フランスだが、大袈裟かもしれないが一歩間違えばドイツ、イギリスvsフランスという構図もあったかもしれない。 またユダヤ人迫害についても頭ではわかっていても、反ユダヤ主義はドイツに限ったものでなく、ユダヤ人迫害という負の面には見て見ぬふりをしていたり、あえてそこは触れないで自分の中で都合の良いドイツのイメージを作ろうとしていた人も多かったのがわかる。 もちろん、宣伝用とはいえダッハウ強制収容所も外国人旅行者が見学できたのは驚きだった。