アメリカン・ブック・アワード あめりかんぶっくあわーど
第39回(2018年)
受賞者
21名ベトナム戦争と難民としての移住を、家族の記憶からたどるグラフィック・メモワール。出産を機に親の過去へ向き合う語り手が、家族史、喪失、移民としての居場所を静かに描き出す。
家族の沈黙をたどる線が、難民として生き延びた時間を浮かび上がらせる。
フィリピン系アメリカ人の記憶、神話、身体感覚、家族の語りを重ねる詩集。怪物的なものと祈り、移民の経験と女性の身体を往復しながら、甘さと痛みを併せ持つ声を作る。
怪物と祈りのあいだで、移民の記憶が身体を通して語られる。
黒人男性性をめぐる既存研究を批判し、黒人男性を権力主体ではなく暴力と脆弱性にさらされる存在として考える理論書。人種、階級、ジェンダーの交差からブラック・メイル・スタディーズを構想する。
黒人男性性をめぐる議論を、支配ではなく傷つきやすさから組み替える。
『Heaven Is All Goodbyes』は、監獄国家、都市の貧困、黒人コミュニティの抵抗を、切断的で音楽的な詩行へ圧縮した詩集である。政治的怒りと夢のような連想が交差し、制度の暴力にさらされる人びとの声を、演説でも記録でもない詩の強度で立ち上げる。
抵抗の言葉が街路のリズムと結びつき、別の秩序を想像させる詩集。
『Life of the Land』は、ハワイ先住民と土地の関係をめぐるダナ・ナオネ・ホールの文章を集めた一冊である。政治参加、環境保護、文化継承を、活動家としての分析と詩的な感受性の両方から描く。
土地の記憶を読むことが、共同体の未来を守る行為になる。
『City of Inmates』は、ロサンゼルスにおける監禁制度の形成を植民地支配、先住民排除、移民管理、黒人・ラテン系住民への統治と結びつけてたどる歴史研究である。都市の発展と「人間を檻に入れる」政治が不可分だったことを明らかにする。
ロサンゼルス史を、監禁という制度の長い影から読み直す。
『The Changeling』は、古書商アポロが妻と子をめぐる悪夢のような喪失を追い、現代ニューヨークの裏側に潜む民話的世界へ踏み込むダーク・ファンタジーである。親であることの恐怖、愛、都市の暴力が、怪異譚として立ち上がる。
おとぎ話は、子を守れなかった親の恐怖を現代都市へ連れてくる。
『Currents』は、ディネの言語感覚、労働の身体性、アメリカの神話や信仰への疑いを重ねる詩集である。建設現場の具体性と象徴的な水脈が行き来し、個人史と先住民の記憶を響かせる。
仕事の手触りと神話の流れが、詩の中で同じ電流になる。
『Tell Me How It Ends』は、米国の移民裁判で子どもたちに尋ねられる質問票を軸に、国境を越えてきた未成年者の物語をたどるエッセイである。通訳として関わった経験から、物語ることの倫理と制度の冷酷さを見つめる。
子どもに「結末」を尋ねる制度の前で、物語は終わらず続いていく。
『Altermundos』は、ラティーナ/ラティーノのSF、ファンタジー、映画、ポピュラーカルチャーを横断する論集である。植民地主義、移民、グローバル化、人種、ジェンダーを、スペキュラティブな想像力から読み直す。
もうひとつの世界を考えることが、現実の権力関係を読み替える方法になる。
ラテン系のスペキュレイティブ文学、映画、大衆文化を扱う論集。SFやファンタジーを白人男性中心のジャンル史から切り離し、植民地主義、移民、ジェンダー、グローバル化を読み直す。
別の世界を想像する批評が、ラテン系文化表現の現在を開く。
デトロイト建設期における奴隷制と自由の歴史を、先住民、アフリカ系住民、労働、拘束の関係から描く歴史書。北部都市における奴隷制の見えにくさを掘り起こす。
都市の夜明けは、自由と隷属の境界に立たされた人々の労働から始まる。
自然詩を書くことを拒む若いクィア先住民詩人テーブスを語り手にした長篇詩。自然と先住民性を安易に結びつける視線に抵抗し、都市生活、欲望、植民地主義の記憶を跳躍する。
自然を書かないという拒否が、自然化された偏見を暴き出す。
自然、身体、愛、ジェンダーの圧力をめぐる詩集。柔らかな音楽性の中に、家父長制や世界の不穏さへの応答を織り込み、痛みと流動性を併せ持つ。
優しい旋律の奥で、世界の不均衡に触れる詩が鳴る。
チカーノの青年ホセフォを中心に、ボクシング、労働階級のカリフォルニア、家族の声、文学的引用を混ぜるデビュー詩集。詩、対話、散文がぶつかり合い、自己を演じることの痛みと滑稽さを描く。
拳のリズムで、労働と家族と言葉の記憶が打ち合う。
動物解放と障害者解放を結びつけ、人間、動物、依存、自立の境界を問い直す思想的エッセイ。著者自身の経験、哲学、倫理を交差させ、ケアと連帯の可能性を探る。
弱さを切り離すのではなく、共有された条件として考える。
ロサンゼルスの黒人アーティストたちが、構造的差別の中でどのように創造的共同体と展示空間を作ったかを追う美術史研究。移住、都市政策、ブラック・アーツ運動を結びつける。
ピコ通りの南から、ロサンゼルス美術史の地図が描き直される。
Heroes Are Gang Leaders は、詩、ジャズ、即興演奏を結びつける集団であり、2018年には口承文学として顕彰された。アミリ・バラカへの応答から出発し、人種、政治、身体、共同体の記憶を音と言葉の場で展開する。
本ではなく、声と演奏が同時に立ち上がる口承文学として評価された。