ナショナル・ブック賞(翻訳文学) なしょなるぶっくしょう(ほんやくぶんがく)
第1回(2018年)
受賞者
10名大災厄後、鎖国状態となった近未来の日本を舞台に、健康な高齢者と弱く生まれる子どもたちの逆転した世界を描く表題作を中心とした短編集。義郎と曾孫の無名の日常を通じて、環境崩壊、言語の変容、世代間の受け渡しを寓話的に問う。
衰退した世界のなかで、弱い子どもと老いた保護者の時間が不思議な明るさを放つ。
日本出身の作家。ドイツを拠点に日独両語で執筆し、言語・移動・境界を主題にした作品で国際的に評価されている。
パリの不妊治療クリニックの待合室にいるキミア・サドルの意識に、イランからフランスへ亡命した家族の歴史が奔流のように押し寄せる。政治革命、家族神話、移民としてのずれ、性的アイデンティティを重ねた、多声的で奔放な長編小説。
待合室の静けさから、三世代にわたる家族の記憶と亡命の物語が噴き出す。
老いた挿絵画家ダニエーレは、娘夫婦に頼まれてナポリの家で幼い孫マリオの世話をする。閉ざされたアパートの中で、祖父と孫の知恵比べは、老い、芸術家としての焦り、家族の記憶、過去との和解をあぶり出す。
祖父と孫の数日間の対決が、老いと芸術と家族の影を鋭く照らす。
移動する身体、旅、解剖学、記憶をめぐる断章がゆるやかに響き合う長篇。旅人の視線から、人はどこから来てどこへ向かうのか、身体は何を記憶するのかを問い、ショパンの心臓や解剖標本をめぐる挿話が時間と空間を横断して連なっていく。
旅と身体の断片が、移動し続ける人間の不安と自由を浮かび上がらせる。
ノルウェー北部の小さな町に越してきた母ヴィベケと息子ヨンの、誕生日前夜の数時間を描く小説。互いを思っているはずの二人はそれぞれ別の夜へ出ていき、視点が交互に切り替わるにつれて、親密さのすぐ隣にある孤独と取り返しのつかない距離が浮かび上がる。
凍える夜を別々に歩く母と子の視線が、愛の不在を静かに照らす。
ブエノスアイレス郊外の療養施設で、生と死の境界を探る奇怪な実験が行われる一九〇七年の物語と、身体そのものを作品化しようとする芸術家の二〇〇九年の物語が交差する。科学、芸術、欲望、進歩への信仰がグロテスクなユーモアの中で結びつく短い長篇。
生と死、芸術と身体の境界が、滑稽さと不快さを帯びて崩れていく。
ISによって拉致・性暴力・強制労働を受けたヤズディ女性たちの証言を軸に、彼女たちを救い出すために危険な連絡網を築いた養蜂家の活動を追うノンフィクション。詩人でジャーナリストでもある著者が、暴力の記録と生還者の声、そして市井の人々の救出行動を結びつける。
極限の暴力のただ中で、人を救うための小さな連帯が希望として描かれる。
植民地期の南インドの村を舞台に、子を授からない夫婦カリとポンナが、家族や共同体からの圧力にさらされる姿を描く。二人は信仰や儀礼に望みを託し、やがて結婚の規範が一夜だけゆるむ祭礼が最後の可能性として浮上する。
愛し合う夫婦の願いが、共同体の慣習と子を持つことへの圧力に揺さぶられる。
ロシアの現実、記憶、夢想、幻想が交差する短編集。亡き父の夢、アメリカの町での空想、崩れゆく結婚、子どもの宗教的なまなざしなど、日常の細部がユーモアと詩情を帯びて別世界への入口に変わる。
日常の奥にひそむ幻想が、記憶と政治と孤独を照らし出す。
文学を学ぶシグリッド、映画監督を志すリンネア、パフォーマンス作家トリーネら、創作と欲望に揺れる人物たちの物語が交差するノルウェー小説。偶然、引用、空想が連鎖し、人々が誰かや何かに属したいと願いながらも、奇妙で不安定な自分自身を引き受けていく姿を描く。
恋愛、創作、偶然が連なり、ありふれた生活の奇妙さがふいに姿を現す。