ナショナル・ブック賞(翻訳文学)
なしょなるぶっくしょう(ほんやくぶんがく)
米国のNational Book Foundationが主催する英語への翻訳作品を対象とした年次文学賞。
- 創設年
- 1967
- 主催
- National Book Foundation
- カテゴリー
- 研究・翻訳・学術
- 選考方式
- 公募
- 受賞対象
- 不問
- 開催頻度
- 年1回
- 締切時期
- 5月頃
- 発表時期
- 11月頃
- 賞のステータス
- 活動中
説明
National Book Award for Translated Literatureは、米国のNational Book Foundationが主管する年次の文学賞で、英語への翻訳作品の優れた文学性を顕彰する。かつては1967年から1983年まで授与されていたが、現在の形では2018年に再導入された。対象はフィクションおよびノンフィクションの翻訳作品で、米国内の出版社が発行した翻訳版が対象(対象期間:前年12月1日〜当年11月30日)。原著の発行年は応募の要件ではなく、著者・翻訳者ともに米国籍である必要はない。長いリスト(10作品)を9月に、ショートリスト(5作品)を10月に発表し、受賞者は11月の授賞式で発表される。賞金は受賞者(著者)と翻訳者で均等に分配される。
賞品
- 主賞品
- Winner: $10,000(賞金は著者と翻訳者で均等に分配)。Finalists: $1,000
- 賞金
- 10,000 USD
- ファイナリストは各$1,000
- 賞金は受賞者(著者)と翻訳者で均等に分配
選考情報
選考プロセス
| 段階 | 審査員 | 通過率 | 発表 |
|---|---|---|---|
| 応募(受付) | 出版社が提出/運営:National Book Foundation | — | 提出期間:毎年3月〜5月(公式サイト参照) |
| 一次選考(ロングリスト) | 年ごとに任命される選考委員団 | ロングリストは10作品(出品数に対する割合は変動) | 毎年9月にロングリスト(10作品)を発表 |
| 二次選考(ショートリスト・ファイナリスト) | 選考委員団(Chair含む) | ロングリストから5作品に絞られる(約50%) | 毎年10月にファイナリスト5作品を発表 |
| 最終選考・受賞者発表 | 選考委員団(Chairが率いる) | ファイナリストから1作品が選出(約20%) | 毎年11月の授賞式で受賞者を発表 |
応募のヒント
推奨
- 募集期間(毎年3月〜5月)に出版社から正しく申請する
- 翻訳者と著者のクレジット情報を明記する
- 翻訳版の刊行日が応募対象期間(前年12月1日〜当年11月30日)内であることを確認する
- 米国の出版社から発行されていることを確認する
注意
- 締切外に提出しない
- 応募要件(刊行期間や出版社所在地など)を満たしていない作品を提出しない
- 翻訳者の情報を省略しない
関連の賞
- National Book Award(ナショナル・ブック賞 本賞部門)
- Best Translated Book Award
- List of literary awards
公式情報
https://www.nationalbook.org/index.html過去の受賞者
台湾の風景、歴史、食、移動の記憶をたどりながら、場所とアイデンティティの関係を見つめる。旅の記録が、植民地史と現代の感覚を静かに結びつける。
旅は、土地の歴史を読み返す方法になる。
中文で執筆する作家(表記はローマ字)。
本を禁じる側と読む側のあいだで揺れる、検閲と知の物語。図書館をめぐる寓話的な設定のなかに、権力と読書への欲望が鋭く浮かぶ。
禁じられた本が並ぶ場所では、読むことそのものが抵抗になる。
サーミの土地、家族、移動の歴史を、長い呼吸でつづる叙事詩。奪われた場所と継承の痛みを、個人の声から集団の記憶へと拡張する。
土地を奪われた記憶が、長い詩の流れのなかで息をする。
混沌と暴力が日常を侵食するコンゴを背景に、音楽と身体のリズムが物語を駆動する。熱気とユーモアを帯びた文体が、社会の断片を一気に走らせる。
踊りのリズムが、混乱した世界の脈動になる。
戦禍のシリアを離れた者たちの痛みと再生を、帰る場所の喪失という視点から描く。故郷と避難先のあいだで揺れる感情が、静かな強さを生む。
風が呼ぶ家は、すでに失われた場所かもしれない。
パレスチナ人囚人として過ごした長い年月を振り返りながら、壁と希望、自由の意味を問い直す回想録。監禁の現実が、静かな文体のなかで圧倒的な重みを持つ。
壁のそばで生きることが、希望の輪郭を変えていく。
一日が繰り返される世界に閉じ込められた女性の感覚を通して、時間と現実のズレを見つめる。反復のなかで、日常の輪郭が少しずつ変形していく。
同じ一日が、少しずつ違う顔を見せはじめる。
古い家に染みついた記憶と、そこで暮らす家族の緊張が、呪いのような空気を生む。女性たちの怒りと継承をめぐる、土の匂いのするゴシック小説。
家にしみついた不穏さが、世代をまたいで膨らんでいく。
環境の崩壊が進んだ世界で、毒のような空気と海を背景に、人々の生活と不安が立ち上がる。終末後の日常を、静かな圧迫感で描く小説。
世界が壊れたあとも、生活はそのまま続いてしまう。
メデジンの家と家族の崩壊を背景に、兄の死と国の暴力をめぐる怒りと愛を吐き出す自伝的小説。辛辣で流麗な語りが、記憶の中にかすかな救いを残す。
怒りがすべてを焼きつくす前に、記憶だけがかろうじて残る。
ブラジルのクィアな生と記憶をめぐり、愛と喪失、言葉の残響をたどる物語。短い断章が、ひとつの人生に残る温度を静かに積み上げる。
言葉が消えたあとにも、感情の輪郭は残りつづける。
ポルトガル語圏の作家(情報は限られるため簡潔に記載)。
ホラー、寓話、ブラックユーモアを自在に行き来する短篇集。消費社会や家族、女性の身体に潜む暴力を、奇妙で鮮烈な想像力でえぐり出す。
奇妙さが、いつのまにか現実のほうを照らし返す。
アフリカ西岸への旅を起点に、奴隷制と植民地暴力の記憶をたどる歴史小説。死者の声と生者の現在が重なり、喪失の地図を描き直す。
戻れない扉の向こうに、歴史の傷が折り重なる。
メデジンに暮らす家族の崩壊と、病に向き合う兄弟の関係を通して、怒りと愛、記憶の混ざり合う場所を描く。辛辣な語り口が、暴力に満ちた社会の輪郭をむき出しにする。
怒りの底に、かすかな愛と記憶が沈んでいる。
離婚を拒まれた黒人女性ノエンカが、故郷を離れて新しい生活を模索する。植民地支配の影と恋愛、孤独が交差する断片的な語りが印象的な小説。
新しい自由は、過去の影をすぐには振りほどけない。
故郷へ戻った生物学者が、喪失と失敗に満ちた町と向き合う。静かな帰郷の物語が、不穏さと哀惜を帯びた地方の風景へと変わっていく。
帰郷は、過去を整理することではなく、再び巻き込まれることだった。
東ドイツ末期を背景に、年の離れた二人の恋と、その関係を支配へと変えていく時間の流れを描く。愛の記憶が、政治的崩壊とともに残酷に揺らぐ。
愛は、時代の崩壊のなかで別の顔を見せる。
戦争と独裁の傷が深く残るシリアを舞台に、死者と生者の記憶が絡み合う。喪失と暴力の感触を、静かな怒りとともに描く長編。
祈られなかった死者たちの不在が、物語の底で鳴りつづける。
メキシコの暴力と日常のあわいを、ルポルタージュと短編のあいだにある文体で切り取る。都市の熱気の裏側にある、恐れと疲弊が浮かび上がる。
これは都市の記録であり、傷の記録でもある。
若いセネガル人作家の旅と模索を通して、文学的記憶、遺産、盗用の問題をめぐるメタフィクション。名声の影と、書くことの責任を問いかける。
もっとも秘密めいた記憶は、書かれた言葉の奥に潜む。
七つの短篇が、家の内部や記憶の綻びを通して、日常に潜む不穏さを浮かび上がらせる。身近な空間が少しずつずれていく感覚を、鋭い寓話性で描く短篇集。
家のなかの静けさが、やがて不穏なざわめきに変わる。
アルゼンチン出身の作家。短編を中心に不穏で寓話的な作風で国際的評価を受ける。
ノルウェーの海辺で暮らす画家アスレと、もう一人のアスレの記憶が交錯する終章。信仰、愛、芸術、時間の感覚を、ゆるやかで催眠的な文体でたどる。
二人のアスレが、人生と信仰の境界をゆっくりとたどる。
ルワンダの歴史、女性たちの記憶、ジェノサイドの影を、民話や伝承の感触を交えて描く小説。個人史と集団史が重なり合い、失われた声を拾い直す。
消された記憶を、伝承と声がそっと呼び戻す。
女子校の親密な関係が、怪談めいた儀式と欲望の高まりによって危うくほどけていく。思春期の不安をホラーとして増幅する、鋭い多声的な小説。
友情は、いつしか呪いのようにふくらんでいく。
言葉の違いとつながりの難しさを抱えた仲間たちが、散らばった世界のなかでコミュニケーションを模索する。ユーモアと不穏さをあわせ持つ、ディストピア的な友愛の小説。
ばらばらになった世界で、言葉だけが橋になろうとする。
スーフィーの思想家イブン・アラビーの生涯を、旅、欲望、信仰、知の探求を交えて描く歴史小説。精神史と冒険譚が重なる、広がりのある物語。
旅と思想が重なり、ひとりの神秘思想家の生が立ち上がる。
現代イランの圧力と息苦しさを背景に、記憶や沈黙、信仰の揺らぎを掘り下げる短篇集。抑圧の中で生きる人々の現実が、静かな緊張感で立ち上がる。
沈黙の下で、日常のひび割れが静かに広がる。
宇宙船を舞台に、人間と人間以外の働き手の記録が並び、労働や感情、身体の境界がゆっくり崩れていく。SFの形式で、人間らしさそのものを問い返す小説。
航行する船のなかで、働くことの意味が少しずつ変質する。
故郷へ戻る旅と記憶の断片をたどりながら、移民の体験と家族史を見つめ直す。個人的な出自を、静かな観察とユーモアで掘り下げる記録文学。
帰ることは、過去をもう一度言い直すことでもある。
18世紀のユダヤ教異端指導者ヤコブ・フランクとその周辺を軸に、宗教、帝国、欲望、暴力が交錯する大河小説。複数の視点が、歴史の複雑さを立体的に映し出す。
歴史の複数の声が、一人の人物をめぐって重なり合う。
国境の町ソクチョを舞台に、若い女性とフランス人男性との関係を通して孤独と欲望、文化的差異を描く短篇的長篇。静謐な筆致で言葉にしがたい感情を掬い上げる作品。
フランス語で執筆する作家。鋭い観察と繊細な心理描写で知られる。
進化論や身体、生命の起源をめぐる短編集。現代的な視点で科学と寓話を往復しながら、複数の物語が連なっていく。
進化論や身体、生命の起源をめぐる短編集。
孤立した島をめぐる寓話的な長篇。空間の閉塞感と人の距離感を通して、現実と想像の境界を揺らす。
孤立した島をめぐる寓話的な長篇。
失われた物や場所を短いエッセイと記述で編み上げる作品。図版や形式の工夫を交えながら、喪失と記憶の関係を静かに掘り下げる。
失われた物や場所を短いエッセイと記述で編み上げる作品。
ロシアの家族史と記憶を、写真や手紙、日記などの断片から再構成するエッセイ的長篇。個人史と集団史が重なり合うなかで、記憶の働きそのものを問い直す。
ロシアの家族史と記憶を断片から再構成するエッセイ的長篇。
福島県相馬郡に生まれた労働者カズは、東京オリンピックを前に上京し、上野で働き、やがて上野公園の片隅で暮らすようになる。死後も駅と公園をさまよう彼の記憶を通して、家族の喪失、貧困、災害、天皇制と都市の繁栄の影が静かに重ねられていく。
上野駅の雑踏に残されたひとりの死者の声が、日本の戦後と見えない貧困を照らし出す。
作家・脚本家。都市周縁や社会的疎外を主題に描く作品で知られる。
大西洋の石油掘削プラットフォームで働くヴァツワフは、同僚で親友のマーチャーシュを嵐の夜に失う。喪失に押し出されるように、モロッコ、ハンガリー、マルタ、イタリア、そして故郷のドイツへと移動しながら、彼は労働、記憶、男性同士の親密さ、自分の人生へ戻ることの難しさに向き合っていく。
海の上で友を失った男が、移動の果てに自分の生の輪郭を探し直す、静かで痛切な旅の小説。
海外で暮らす祖父が、半年ごとにスウェーデンへ戻り、成人した子どもたちの生活に入り込む。息子は父との古い取り決めを終わらせたいと思い、娘は自分の人生の岐路に立たされる。家族を縛る暗黙の契約と、親子が互いに背負わせてきた傷を、軽妙さと痛みを交えて描く小説。
家族を続けることは、過去に縛られることなのか、それともそこから別の関係を作り直すことなのか。
コロンビア太平洋岸の海と密林に挟まれた寒村で、子を持てないまま中年に差しかかったダマリスは、母を失った子犬を引き取り、娘のように愛しはじめる。孤独、母性への渇望、夫婦の冷えた関係、過酷な自然が絡み合い、愛情はしだいに執着と暴力を帯びていく。
一匹の雌犬に注がれる過剰な愛が、孤独と喪失の奥に潜む暴力をあらわにする、濃密なトロピカル・ゴシック。
1949年8月、ナクバのさなかにネゲブ砂漠で起きたパレスチナ人少女への暴力と殺害を起点に、現代のラマッラーに暮らす女性がその痕跡を追う中篇小説。二つの時代の語りを重ね、記録からこぼれ落ちる声、占領下の移動と恐怖、過去が現在に残す傷を静かな緊張で描く。
ひとつの「細部」から、消された歴史と現在に続く暴力の輪郭が浮かび上がる。
一九七九年のイラン・イスラム革命後、テヘランの家を焼かれた一家は、知的な自由と命を守るため北部の村ラーザーンへ逃れる。十三歳で命を落とした末娘バハールのまなざしが、生者と死者、民話と政治的暴力が交錯する一家の喪失を語る。
スモモの木の上で母が啓示を受けた瞬間、一家の悲劇は歴史と神話の境目で語り直される。
ソウル郊外で夫と幼い娘と暮らすキム・ジヨンが、ある日から母や友人など別の女性の声で話しはじめる。精神科医の記録という形式で誕生、学校、就職、結婚、育児をたどり、平凡な人生の中に積み重なる性差別と沈黙を描く小説。
一人の女性の半生を通して、日常に埋め込まれた差別が静かに輪郭を現す。
タミル・ナードゥの農村で、見知らぬ巨人めいた男から弱々しい黒い子山羊を託された老夫婦が、その山羊プーナーチを育てていく物語。山羊の感覚を通して、干ばつや飢え、家畜をめぐる行政、カーストや色をめぐる序列が、牧歌的な日々の背後にひそむ不穏さとして浮かび上がる。
小さな黒山羊の一生が、弱きものを守るはずの世界の冷たさと、そこに残る愛情の瞬間を映し出す。
メキシコ湾岸の架空の村ラ・マトサで、〈魔女〉と呼ばれる女性の死体が用水路から見つかる。噂、貧困、暴力、ミソジニーが渦を巻く村で、複数の語りが殺人の周辺にいた人びとの孤独と加害の連鎖を浮かび上がらせる長篇小説。
〈魔女〉の死をめぐる噂が、村に沈んでいた暴力の根をあらわにしていく。
アテナ神話を現代スウェーデンに移し替えた短い長編。父コンラッドの頭から十二歳の少女アンナが生まれ、父は精神病院へ、アンナは里親の家へ送られる。信仰共同体、言語、孤独、父への希求が重なり、現実から切り離されていく少女の内面を、神話的な設定と研ぎ澄まされた心理描写で描く。
神話として生まれた少女の孤独が、現代の家族と精神医療の風景の中で痛切に響く。
破天荒な伯爵の帰郷を軸に、地方都市の噂、政治、哲学が渦巻くハンガリー文学の大作。
破天荒な伯爵の帰郷を軸に、地方都市の噂、政治、哲学が渦巻くハンガリー文学の大作。
ハンガリーの小説家。長文・哲学的な作風で国際的に評価されている。
『Death Is Hard Work』は、シリア内戦下で父の遺体を故郷へ運ぼうとする三きょうだいの旅を描く小説である。短い道のりは検問、暴力、家族の記憶によって引き延ばされ、死者を葬ることさえ困難な世界が浮かび上がる。
父を埋葬する旅は、戦争が生活の細部まで壊したことを示す。
『The Barefoot Woman』は、ルワンダ虐殺で失われた母ステファニアを悼み、その生活、知恵、ユーモアを記憶から編み直す回想録である。家族の物語は、亡くなった人びとを匿名の数字ではなく個々の生として取り戻す行為になる。
母の足跡をたどる文章が、失われた身体のための覆いになる。
『密やかな結晶』は、ある島で鳥や花、写真、記憶までもが少しずつ消えていく世界を描く長編小説である。忘却を強いる権力のもとで、小説家の語り手は編集者をかくまい、失われるものを言葉に留めようとする。
消えていくものを忘れないことが、最後の抵抗になる。
『Crossing』は、アルバニアからイタリアへ逃れようとする二人の若者を軸に、亡命、性、ジェンダー、自己創造を描く小説である。語りは移動先ごとに姿を変え、固定された身元への疑いを物語の形にしていく。
逃げることは、生き延びることでも、自分を何度も作り替えることでもある。
『The Collector of Leftover Souls』は、ブラジルの周縁化された人びとと地域を追ったエリアーニ・ブルムのルポルタージュを英訳で集めた本である。アマゾン、ファヴェーラ、老人ホーム、金採掘の現場などを通じ、日常の中の抵抗と尊厳を描く。
見落とされがちな人びとの声が、ブラジルの現在を別の角度から照らす。
『Space Invaders』は、ピノチェト独裁下のチリで育った子どもたちの記憶と夢から、消えた同級生エストレージャの影をたどる短い小説である。ゲームの断片的な光景が、国家暴力と忘却の比喩になる。
子どもの遊びの記憶が、独裁の恐怖をあとから照らし出す。
『Will and Testament』は、両親の遺産相続をきっかけに、長く断絶していた家族の秘密とトラウマが再燃するノルウェーの小説である。ベルグリョットの語りは、信じてもらえなかった過去をめぐる怒りと自己防衛を執拗にたどる。
相続の争いは、財産ではなく記憶と真実をめぐる闘いへ変わる。
『Drive Your Plow Over the Bones of the Dead』は、ポーランドの山村で起こる連続死を、占星術と動物への倫理を信じる老女ヤニナの視点から語る小説である。推理小説、寓話、エコロジカルな怒りが混ざり合う。
動物たちが復讐しているのではないか、という奇妙な推理が世界の倫理を揺さぶる。
大災厄後、鎖国状態となった近未来の日本を舞台に、健康な高齢者と弱く生まれる子どもたちの逆転した世界を描く表題作を中心とした短編集。義郎と曾孫の無名の日常を通じて、環境崩壊、言語の変容、世代間の受け渡しを寓話的に問う。
衰退した世界のなかで、弱い子どもと老いた保護者の時間が不思議な明るさを放つ。
日本出身の作家。ドイツを拠点に日独両語で執筆し、言語・移動・境界を主題にした作品で国際的に評価されている。
パリの不妊治療クリニックの待合室にいるキミア・サドルの意識に、イランからフランスへ亡命した家族の歴史が奔流のように押し寄せる。政治革命、家族神話、移民としてのずれ、性的アイデンティティを重ねた、多声的で奔放な長編小説。
待合室の静けさから、三世代にわたる家族の記憶と亡命の物語が噴き出す。
老いた挿絵画家ダニエーレは、娘夫婦に頼まれてナポリの家で幼い孫マリオの世話をする。閉ざされたアパートの中で、祖父と孫の知恵比べは、老い、芸術家としての焦り、家族の記憶、過去との和解をあぶり出す。
祖父と孫の数日間の対決が、老いと芸術と家族の影を鋭く照らす。
移動する身体、旅、解剖学、記憶をめぐる断章がゆるやかに響き合う長篇。旅人の視線から、人はどこから来てどこへ向かうのか、身体は何を記憶するのかを問い、ショパンの心臓や解剖標本をめぐる挿話が時間と空間を横断して連なっていく。
旅と身体の断片が、移動し続ける人間の不安と自由を浮かび上がらせる。
ノルウェー北部の小さな町に越してきた母ヴィベケと息子ヨンの、誕生日前夜の数時間を描く小説。互いを思っているはずの二人はそれぞれ別の夜へ出ていき、視点が交互に切り替わるにつれて、親密さのすぐ隣にある孤独と取り返しのつかない距離が浮かび上がる。
凍える夜を別々に歩く母と子の視線が、愛の不在を静かに照らす。
ブエノスアイレス郊外の療養施設で、生と死の境界を探る奇怪な実験が行われる一九〇七年の物語と、身体そのものを作品化しようとする芸術家の二〇〇九年の物語が交差する。科学、芸術、欲望、進歩への信仰がグロテスクなユーモアの中で結びつく短い長篇。
生と死、芸術と身体の境界が、滑稽さと不快さを帯びて崩れていく。
ISによって拉致・性暴力・強制労働を受けたヤズディ女性たちの証言を軸に、彼女たちを救い出すために危険な連絡網を築いた養蜂家の活動を追うノンフィクション。詩人でジャーナリストでもある著者が、暴力の記録と生還者の声、そして市井の人々の救出行動を結びつける。
極限の暴力のただ中で、人を救うための小さな連帯が希望として描かれる。
植民地期の南インドの村を舞台に、子を授からない夫婦カリとポンナが、家族や共同体からの圧力にさらされる姿を描く。二人は信仰や儀礼に望みを託し、やがて結婚の規範が一夜だけゆるむ祭礼が最後の可能性として浮上する。
愛し合う夫婦の願いが、共同体の慣習と子を持つことへの圧力に揺さぶられる。
ロシアの現実、記憶、夢想、幻想が交差する短編集。亡き父の夢、アメリカの町での空想、崩れゆく結婚、子どもの宗教的なまなざしなど、日常の細部がユーモアと詩情を帯びて別世界への入口に変わる。
日常の奥にひそむ幻想が、記憶と政治と孤独を照らし出す。
文学を学ぶシグリッド、映画監督を志すリンネア、パフォーマンス作家トリーネら、創作と欲望に揺れる人物たちの物語が交差するノルウェー小説。偶然、引用、空想が連鎖し、人々が誰かや何かに属したいと願いながらも、奇妙で不安定な自分自身を引き受けていく姿を描く。
恋愛、創作、偶然が連なり、ありふれた生活の奇妙さがふいに姿を現す。